電気化学では,電子やイオンの流れを電流として測定します.この電子やイオンの流れは,電池やセンサーなどに広く利用されています.一方,神経細胞における信号伝達や細胞活動においても,電子やイオンの流れを利用しています.物質分析学研究室は,これらの流れを解析することによって,新しい電気化学分析法の開発や生体膜現象の解明を行っています.
常温・常圧の環境下では,多くの場合,電子やイオンの流れは,プラス電荷とマイナス電荷を打ち消し合うように複数の反応が関わります.電気化学では,このような複数の化学種が関係する複雑な反応を電位に基づいて解析することができます.
カリウムをキャリブレーションフリーで電量測定するための全固体型薄層セル
Shiho Tatsumi, Terumasa Omatsu, Kohji Maeda, Maral P.S. Mousavi, George M. Whitesides, Yumi Yoshida*
Electrochimica Acta, 408(10) (2022) 139946
doi.org/10.1016/j.electacta.2022.139946

An all-solid-state thin-layer laminated cell for calibration-free coulometric determination of K+
導電性高分子インクを作成し,印刷技術で作成できる電量測定型カリウムイオンセンサを開発しました.わずか 1 μL の試料水溶液中に含まれるカリウムイオンを,試料水溶液から液膜へと電解抽出し,その時の電気量から直接物質量を評価しました.検量線を必要としない絶対定量法です.10倍希釈した血清中のカリウムを測定できます.
電気化学発光を用いたO/Wエマルション分散状態の in situ 測定
鈴木,植田,広瀬,吉田,前田*, 分析化学,70(9) (2021) pp.541-550

イオン対分配モデルに基づく膜透過理論の実証
T. Omatsu, K. Hori, N. Ishida, K. Maeda, Y. Yoshida*,
Biochimica et Biophysica Acta (BBA) – Biomembranes, 1863(11), (2021) 183724.
doi.org/10.1016/j.bbamem.2021.183724

Distribution of ion pairs into a bilayer lipid membrane and its effect on the ionic permeability
細胞の基本骨格である脂質二分子膜を介したイオン性分子の膜透過は,中性分子とは異なる膜透過挙動を示しますが,これを説明できる理論は.今までありませんでした.本研究では,標的のイオン性分子のみならず,共存する反対電荷をもったイオンが,脂質二分子膜に分配し膜透過性を支配していることを,実験的に明らかにしました.さらに同結果に基づき,これまでのイオンの膜透過機構の概念を覆す新しい膜透過理論を提案しました.
- 【受賞】2022年5月18日 博士前期課程1年の山崎毅くんが,第82回分析化学討論会(茨城大学@水戸)で若手ポスター発表賞を受賞しました.
- 【お知らせ】辰巳さんのキャリブレーションフリーイオンセンサが日本分析化学会の「展望とトピックス」に選ばれました.
- 【祝卒業】博士後期課程2名(大松くん,小島さん),博士前期課程(高見さん,飯嶋くん,佐々木さん),卒論生(伊藤さん,道川さん)が卒業しました.大松くんは引き続き,特別研究員として研究室に残っています.
- 【お知らせ】2022年2月9日 博士後期課程の大松照政くん,社会人博士課程の小島順子さんの公聴会を行います.
- 【論文】2022年01月20日 辰巳史帆さんの使い捨て電量測定型イオンセンサの研究成果が,Electrochimica Acta にアクセプトされました.